日々、整える

50代*これからの暮らしのレシピ by.コギレイ堂

三谷さんのバターケース

 

ギャルリ灰月は松本の中心街のビルの2階にありました。

 

憧れていたそのギャラリーの、扉を開けるときの

ドキドキした気持ち。今でも覚えているくらいです。

 もう20年近く前の話ですが。

 

 

スタイリストのかたがお気に入りの私物を紹介する企画は

今でもよく見かけますが、三谷隆二さんのお名前も確か

雑誌のそんな企画で知ったのだったと思います。

スマホも無くて、ネットからの情報も少ない頃でした。

 

 

手に入れたいと思っていたバターケースは

ギャラリーの奥にひとつ展示されていました。

初めて実物を見たバターケース

思っていた通り、いえそれ以上の美しいもので

食卓の道具というよりも、工芸品のようでした。

いただきたい旨を伝えると、お店の方のお返事は

少なくとも半年、長くて一年の納期を頂戴しております、

ということでした。

 

半年ほど経ってギャラリーから連絡が入り、

恋焦がれたバターケースは無事に我が家に届けられました。

 

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素材は桜の木。

桜の木をくりぬいて仕上げられているので

継ぎ目がありません。

ふたには最小限の溝があり、

本体にぴったりと端正に収まります。

バターナイフも同様に溝に収まります。

木の肌触りはこの上なく滑らかで、固いはずなのに柔らかく、温もりすら感じられます。

角はわずかに面取りが施されていて直線ではあるけれど、そこはとなく優しい。

 

…………………………

 

 

それからずっと、我が家の食卓で、また冷蔵庫の中で

冷たく美味しいバターが仕舞われることになりました。

 

家具でもそうですが、無垢の木は、時間が経つと乾燥するため

オイルによるお手入れが必須となりますが、

バターケースはバターから出る油分が木に作用し、

特別なお手入れを必要としません。

中のバターを使い切ったら、洗剤をつけたスポンジで洗い

よく乾かす、それだけです。

 

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松本から届いて20年。

ほとんど毎朝と言っていいほど、我が家の食卓に上ります。

もう当たり前の風景になってしまったのですが

三谷さんのこの美しい作品が我が家のテーブルにすっかり馴染んで

少しずつ木の艶が増し、より滑らかになってきたようで嬉しいです。

普段は意識しないのですが、時々、

「やっぱりいいねぇ」と家族でしみじみ眺めています。

 

これからもずっと大切に使っていきたいものの一つです。

 

 

 

…………………………

 

 

 

何でも簡単に、ネットでも、全国どこのものでも

手軽にスピーディーに手に入る便利な時代になりました。

「欲しい」となると、必死になって検索したり、そして

注文して翌日届かないとなると「遅い」と感じてしまうくらい。

もしもこのバターケースをネットや通販で簡単に手に入れていたら?

 

 

 

「ゆっくり見ておいで」と

幼い娘とギャラリーの外の遊歩道で待っていてくれた夫、

注文してから届くまでのわくわくした時間。

そんな記憶も含めての、特別な道具なのだと思っています。

 

 

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 (ゆ)